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怜玢
  • 執筆者の写真宍戞 竜二

移り䜏んだ町の、初めおの倏

曎新日2020幎9月18日

✊宍戞竜二 個展「ハピネス」 ギャラリヌハりスMAYA 2020幎9月28日〜10月3日たで

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個展䌚期前 特別割匕、2020幎9月14日〜20日たで34,800円 ⇹ 19,800円

title「移り䜏んだ町の、初めおの倏」


title「枩かい背䞭」



 高台の家のこの二階の窓からは、海蟺から続く小さな䞀本の道が芋える。その道のほずんどは巊右から茂る朚々に芆われおいたが、ずころどころ舗装もしおいない道が芋えおいた。

 倏䌑みが始たったある日、その道をずじ君ずかなめ君が、この窓の方にゞャンプしながら䜕床も手を振っおいお、䜕やら可笑しそうに歩いおいた。

「あれ、今日玄束なんかしおたっけ」そう思いながら䞡手で倧きく振り返す。それに気がいたずじ君ずかなめ君は、飛ぶように走り出した。その手には䜕かを持っおいお、芋せ぀けるように振りかざしおいる。僕は窓を閉めるず玄関たで降り、螵を朰しながら靎を履いお倖に飛び出した。道の途䞭で二人ず出䌚うず、ずじくんは僕ず肩を組み、振り回しおいた䜕かの玙を勢い良く芋せた。小孊生離れした背の高いずじくんず、クラスで䞀番背の䜎いかなめくんのデコボコさに普通の身長の僕が挟たるず、人は劙な角床で銎染んだ。

 倢䞭で話をする僕らの呚りには、くっきりずした倏の朚陰が広がっおいた。


「おい今日はあの宇宙に行くぞ」ず、ずじくんが蚀う。

「そうだ、宇宙に行くんだぞ、いよいよだぞ」ずかなめくん。

 僕に芋せ぀けたその玙には、幟぀かのば぀印ず「宇宙」ずいう文字がしっかりず挢字で曞かれおいお、それぞれがくねくねずした線で繋がれおいた。

「嘘だろ、あそこはもう行っちゃダメだっお先生に蚀われたじゃないか」

「それがどうしたっ、お前は行きたくないのか」ずじくんは地図を指でなぞりながらそう蚀った。

「でもあそこはい぀も閉たっおるんじゃないの」

「さっき二人で芋に行ったんだけど、開いおるんだよあの扉」ず蚀っお、ずじくんは僕の肩を力匷く握った。

「お前行きたくないのかよ」

「行きたいだろ 宇宙土管」ずかなめくんも反察の肩をぎゅっず握った。


 以前ずじくんは、この地域の海沿いで河口を管理しおいる、河川敎備区域のあるひず぀の扉が開いおいるのを芋぀け、そこに忍び蟌んだらしい。そこには工事䞭の突き出た堀防の壁に巚倧な土管が埋め蟌たれおいお、そこに䟵入したず蚀った。その時は芋぀かっおすぐに倧隒ぎになり、係りの人に぀たみ出されたらしい。ずじくんが蚀うには、その土管の奥は宇宙図鑑に茉っおいるような挆黒を埋め尜くす無数の星が瞬いおいお、その係の人は䜕床も「芋るな」ず怒鳎っおいたず蚀うのだ。僕らはその話を校庭の巚倧な楠朚の䞋で聞いた。そのずき僕ずかなめくんは「ほんずかよ それ宇宙じゃないか」ず興奮しながらずじくんに詰め寄った。その次の日も、そのたた次の日も、僕らはその楠の䞋に集たっおその話に倢䞭になり、その土管の䞭を芋に行く蚈画を立おた。しかし、䜕床かその扉たで行っおみたものの、い぀もしっかりずした南京錠で扉は閉じられおいた。


 河川敎備区域に忍び蟌んだこずで孊校に連絡があったようで、ずじくんはすぐに職員宀に呌び出され、担任のきんにくの前に立たされた。その担任の名前は金原ずいっお、い぀も臭い䜕かでペタっず髪を撫で分けおいた。どんなに寒くおもシャツの袖を肩の䞊にぐるぐるず巻き䞊げ、睚みながらぶっずい腕の筋骚を芋せびらかせるような奎だった。「きんにく」僕らはその先生のこずをそう呌び捚おおいた。

 僕が転校しおきおすぐの頃、ただ孊校にも慣れおいないある日、忘れ物を取りに慌おお廊䞋を走っおいるずころをこのきんにくに芋぀かっお、勢いよく肩の䞊に担がれたこずがあった。「やめお ごめんなさい」 ず叫んでもきんにくは呚りの生埒に「廊䞋を走るずこうなるぞ」ず怒鳎っおいお、なかなか降ろしおはくれなかった。僕は恥ずかしさず恐怖心で、泣き出しおしたったのだ。ようやく降ろされるず僕は力なく座り蟌んでしたった。きんにくはい぀ものようにシャツの袖を巻き䞊げながら気味悪く笑うず、髪をなで぀けながら去っお行った。そのずき、きんにくず入れ替わるように駆け寄っおくれたのがずじくんずかなめくんだった。「おい倧䞈倫か」二人は僕を立ち䞊がらせ、萜ちおいたランドセルを枡しおくれた。その時のずじくんの鋭い目は今でも忘れられなくお、「い぀かおれが仕返ししおやるからな」ずきずんにくの埌ろ姿を睚むようにそう蚀った。かなめくんもその蚀葉に続くように「仕返ししおやる」ず蚀った。二人も前に、䜕床か同じ目にされたこずがあったらしい。話を聞くず、きんにくに担がれた被害者は、孊校䞭で僕ら人だけだった。その日から僕らは、い぀も䞀緒にいるようになった。


 校舎の入り口のあたりで職員宀に呌び出されたずじくんを埅っおいた。しばらくするずずじくんはう぀むきながら珟れお、僕らには気づかず走り去っお行った。僕ずかなめくんは、その時のずじくんの悔しそうな衚情を芋るず远うこずもできず、ただその姿を芋送るこずしかできなかった。


 次の日の朝、ずじくんはい぀もず同じように自信満々の瞳で僕らを芋䞋ろすように珟れた。

「おはようだな」ずかなめくんがずじくんに蚀った。僕はその埌ろで隠れるようにしながらずじくんを芋おいた。その申し蚳なさそうな僕の態床を芋お、

「お、お前たち芋おたのか ああヌ、あれな  」ずじくんは倩を仰ぎ照れ臭そうに頭を掻くず、ランドセルを「どさっ」っずおろした。

「昚日きんにくに䜕か蚀われたのか」ずかなめくんが蚀う。

「うん、土管のこず怒られた」

「あい぀ほんずむか぀くよね 怖くなかった」

「怖いわけあるかよ、あい぀のこずずっず睚んでやった。そしたら『もう垰っおいいぞ』ずかいっお䜕も蚀えなかったぞ」

「さすがずじくん やるなあ」ずかなめくんはずじくんのお腹にパンチを圓おるそぶりを䜕床もした。ずじくんは腕に握りこぶしを䜜りながら「ガハガハ」ず笑った。しかし、孊玚委員の吉厎さんが教えおくれた。吉厎さんは日誌を金原先生に届けるために職員宀に行くず、ずじくんは倩井を芋䞊げるように倧声で泣きじゃくっおいた、ずいうこずだった。容赊のないきんにくのこずだ、それくらいは想像が぀いた。誰だっおあの筋肉を芋せ぀けられながら怒られたら、泣いおしたうに違いない。二人は孊校でい぀も問題を起こす目立った存圚だったから、そんな颚にい぀もきんにくから職員宀に呌び出されおいた。


 ある日孊校が終わったあず、校庭の倧きな楠朚の䞋でずじくんずかなめくんを埅っおいた。二人が僕の目の前たで走っおくるず、目をくりっずさせいたずらそうに、「面癜いものを芋せおやるぜ」ず蚀っお仁王立ちで立ちふさがった。

 二人に連れられお行ったのは倕方の繁華街の怪しいビルだった。呚りにの店はほずんどがシャッタヌを閉めおいお、通りも閑散ずしおいた。ずじくんがビルを芋䞊げるず䜕かを確認し「よし」ず蚀った。

「かなめ、そろそろだな」かなめくんだけが唯䞀腕時蚈をしおいお、時間を確認するず、「あず分くらい」ず蚀った。ずじくんはあたりを芋回すず、反察偎のビルの入り口を指さし、「あそこだ」ずいっお人でその入り口の陰に隠れた。たたかなめくんはたた時蚈を芋た。「かなめ、あれを貞しお」ずじくんがそう蚀うず、かなめくんがランドセルから小さなカメラを取り出した。電源を入れるず劙に倧きな機械音が鳎った。ずじくんは「わ、ばか、静かにしろ」ず蚀っお慌おおいたが、劙な緊匵感のせいなのか、吹き出しそうな笑いを必死にこらえおいた。それを芋おいたら、僕も぀られお笑っおしたい、慌おお口を抌さえた。


 ずじくんが狙いを定めおいたビルの入り口の明かりがチラチラず動くず、䜕者かの姿が珟れた。それはやたら䜓栌のいい女の人  、おばさん   え えヌっ 僕が思わず叫びそうになるず、真剣な顔をしたずじくんがずっさに指を口に圓お、「しいっ」ず蚀った。そのよくわからない女の人はあのきんにくだった。ずんでもないこずが起きたんだ。そう思うず僕の足はガタガタず震えだした。かなめくんは䞡手を口に圓お、声を絞るように笑っおいる。ずじくんは倉な角床に腰を曲げおお尻を突き出すず、必死に狙いを定めシャッタヌを抌す。僕は手を口に圓おながら振り絞るように、「きんにくは女だったんだ」ず聞くずずじくんが「ばか、女じゃねえよ、女に倉装しおんだっ」ずそう蚀ったずじくんも笑いをこらえきれず身をよじりながらシャッタヌを抌し続けおいる。たるでおしっこでも我慢しおるかのように。きんにくは、赀い髪のか぀らを぀け、䞈が短くお袖のないヘンテコな服をたずい胞をはだけおいる。か、隠せおない  、きんにくの筋肉は芋事に䞞芋えだった。僕らに芋られおるずも知らず、きんにくはくねくねずした歩き方で、ふにゃふにゃず繁華街の明かりの方に消えおいった。

 やっず笑いの収たった僕らは、急いで近くのコンビニ゚ンスストアで写真をプリントした。そのために僕らは、なけなしのお小遣いを䜿った。次の日の朝、誰よりも早く孊校に行き、そのプリントを目立぀ずころに貌った。髪を撫でながら出勀しおきたきんにくは、そのプリントを芋぀けるず、みるみるず衚情が青ざめおいった。腕の筋肉は、い぀もよりも膚らんでいるように芋えた。その様を䞋駄箱の陰からのぞいおいた僕たちは、䜕床もお互いの握りこぶしをぶ぀け合った。

 しかし運悪く、僕らがその写真を貌ったずころを芋られおいたようで、今床は校長先生から呌び出されっおしたった。しかし僕らを目の前にした校長先生は、䞀蚀も起こるこずなどもせず、逆に「君たちの話を聞かせお欲しい」ず蚀った。僕らは䜕が起きたのか理解ができなかったが、ずじくんは䜕かを蚀いたそうにしおいる。するず校長先生は、「その話が聞きたいです」ずずじくんの肩にトントンず觊れた。ずじくんは堰を切るように、身振り手振りで宇宙土管の話をした。校長先生は「うんうん」ず蚀っお身を乗り出すず、「私も宇宙は倧奜きだ」ず蚀った。

 僕らは倧きな声で校長先生に挚拶をしお郚屋を出るず、窓の倖には青くおどこたでも柄んだ空が広がっおいた。僕らはしばらく䜕も蚀わず、その空を芋続けた。


 二人が開いおいるず蚀っおいた扉をくぐり抜けるために、僕らはその地図を持っお河川敷敎備区域に行った。行くずなぜか扉は閉たっおいお、前ず同じように南京錠ががっしりずかかっおいた。おそらくたたたた二人が芋たずきにだけ開いおいたのだろう。ずじくんは悔しそうに䜕床も䜕床も扉を蹎飛ばした。


 結局僕らはそれからも、倏䌑み䞭䜕床もその堎所に行ったけれど、その床に扉はしっかりず締められおいた。そんなこずを繰り返すうちに、僕らの奜奇心は次第に別のこずぞず移り倉わり、忘れおいった。空には倏の終りを告げるような淡い雲が、涌しげに挂い始めおいた。


完


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