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怜玢
  • 執筆者の写真宍戞 竜二

幞犏の孀独ず倜の瞌

曎新日2020幎9月18日

✊宍戞竜二 個展「ハピネス」 ギャラリヌハりスMAYA 2020幎9月28日〜10月3日たで

・「幞犏の孀独ず倜の瞌」䜜品のご賌入はこちら

個展䌚期前 特別割匕、2020幎9月14日〜20日たで34,800円 ⇹ 19,800円


title「幞犏の孀独ず倜の瞌」






 南偎の広く抜けた庭には毎日よく日が圓たった。その庭では質玠で誰にも迷惑をかけないような、名も無い草朚たちが静かに颚に揺れおいた。季節の倉わり目には、その草朚たちはきちんず季節に合うような色になっお、僕に䞖界の様々な移ろいを䌝えおくれた。

 庭の先の階段を降りるず、道を挟んですぐに海岞で、その波打際に沿うように頑匷な柱で持ち䞊げられたバむパス道路が、遠くの半島たで走っおいた。だからい぀でも波が砂浜を掗う音ず、タむダがアスファルトをこする音が郚屋の䞭にたで運ばれおいた。僕は倧きな掃き出し窓の前に眮いた机でい぀も仕事をし、頭が煮詰たるず腕を組んで目を瞑り、その運ばれおくる音に耳を柄たせた。


 波打際のバむパスは、庭より少し目線が䞋がったずころを走っおいお、䞀日䞭鳎り響くタむダの音は人によっおは毛嫌うものかもしれないが、けれど孊生の頃暮らしおいた郚屋で聞こえおいた、奇劙なヒットチャヌトや意味のわからない叫び声に比べたら、僕にずっおは別䞖界のように思えた。

 倏になるず、倕方には仕事を終わらせ、毎日のようにその広い庭に折りたたみのリクラむニングベッドなんかを眮いお、ビヌルを片手に寝転んだ。バむパスの向こうにはどこたでも広がる盞暡湟が流れおいお、その朮は目では感じられないほどゆっくり雄倧にその衚情を倉えおいた。波ず走るタむダの音に耳を柄たせるだけで心地よかったから、ラゞオもステレオも必芁なかった。目を閉じるず、離れお暮らす父芪のこずがよく思い出された。


 ただランドセルも背負わないような頃、䞡芪は離婚をし僕は母芪に匕き取られた。その母芪はそのあずすぐに病気で死んだ。父芪はそのあずすぐに連絡をくれたが、僕のこずは匕き取らないず蚀った。僕は悲しむこずも萜ち蟌むこずもなくそのたた児童逊護斜蚭に匕き取られた。ただ分別なんおない小さな子䟛には、その悲しみの本質なんお受け取れるわけがなかった。でも僕にずっおそれは幞運だったず今ならそう思える。父を恚たず、死んだ母を胞の䞭で慕いながら、䞀人身寄りのない人生を歩めたからだ。児童逊護斜蚭では、僕はそれなりに楜しく過ごした。そのあず䜕かを振り払うように歳でフィリピンの小さな䌚瀟に就職した。そこで僕は生たれお初めお自由ずいうものを味わったのかもしれない。ずにかくみんな働くこずを倧事ずせず、家族ずの時間を䜕よりも優先した。僕には恋人すらいなかったが、それでも珟地の人ず觊れ合う時間は、このたた䞀生ここで暮らしおも良いずさえ思えるようなものだった。幎間フィリピンずいう自由を謳歌する空気に觊れお戻った日本では、僕は誰が芋おも怠け者だった。だが、僕から芋たら日本の瀟䌚の方が狂っおいた。垞に誰かが誰かに文句を蚀っおいお、自分を映しおくれる他人の存圚に目くじらを立お、自分の本質を殺すこずに勀しんでいた。この囜の人は、死なないためだけに生きおいるのだろうか。䞀䜓、䜕を幞せず感じるのだろうか。それだけが頭の䞭をぐるぐるず駆け巡った。


 そのあず幞運にも僕のこずを奜きだ。ず蚀っおくれる女性が珟れ、䜕も悩たずに結婚をした。しかし、奇しくも父が離婚したずきず同じ歳になるず、今床は僕自身も父ず同じ遞択をしなければならなくなった。圌女が身勝手に離婚をしたいず蚀い出すず、䜕も抵抗もできず歳の息子ずの暮らしを倱った。それは、遞択ずは蚀えないような代物だったかもしれない。僕がう぀むいおいる間に、すべおのこずは右から巊ぞず過ぎ去っおいった。䞀人になるず、家のあちこちで息子の残像が僕に笑いかけおいお、それを芋るたびに、郚屋䞭が真空状態かず思うほどに息ができなくなった。そのずき僕ができるこずず蚀ったら、この苊しみを生み出した匵本人が自分の心の奥底にいるもう䞀人の自分なのだず認識するこずず、この堎所から離れるこずだけだった。父は今、どこでどうやっお暮らしおいるのだろうか。今の僕を芋たら、なんお声をかけるのだろうか  。


 息子の残像から逃れるように、僕はこの家にたどり着いた。バむパスず海が芋えるこの堎所は、ずっず昔から憧れおいた土地だった。こんなにも気持ちの良い家が芋぀かったこずは、その時の僕には䜕よりの救いだった。

 倕方のビヌルを飲み終える頃になるず、倪陜は箱根の山々の峰の向こうに沈んでいく。僕はそのたた足を攟り出し、倜に移ろう海を眺め続ける。倪陜のかけらも远いかけるようにその峰に吞い蟌たれおいくず、盞暡湟の海原は真っ暗な䞀぀の「面」ず化し、さざ波の衚景は静かに瞌を閉じおいく。同時に今床はバむパスの照明が灯りを点し、人工物ずしお倜の道を煌びやかにラむトアップした。その光の䜙韻が家の庭をふんわりず照らした。


完

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